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札幌地方裁判所 昭和27年(行)26号 判決

原告 竹本礼吉

被告 北海道知事

主文

被告が昭和二十七年七月二十五日別紙第一目録記載の土地について買収の時期を昭和二十七年四月二十日としてした農地買収処分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人らは、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一  別紙第一目録記載の各土地(以下本件土地と略称する。)は、いずれも原告の所有であるところ、訴外美唄市農業委員会は、右土地につき旧自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三条及び第十五条により買収計画をたてた。原告は、これに対し法定の期間内に同農業委員会に異議を申し立てたところ、同月二十二日却下されたので、更に法定の期間内に訴外北海道農業委員会に訴願したが、同年五月二十五日棄却され、同年七月二十三日右裁決書謄本の交付を受けた。ついで被告は、右買収計画に基き本件土地につき、買収の時期を同年四月二十日とする同年七月二十五日付買収令書を発行し、原告は同年八月十二日右買収令書の交付を受けた。

二  しかしながら、右買収処分は、次の理由により違法である。

(一)  本件土地は原告の保有農地として指定を受けたものの一部であるから買収することはできない。

原告は昭和二十年十一月二十三日当時から別紙第二目録記載の(一)ないし(七)の土地(以下それぞれ(一)ないし(七)の土地と略称する。)合計五町歩を所有していたところ、昭和二十三年十月二日を買収時期とする農地買収(以下旧買収という。)によつて、右(五)の土地のうち三反五畝歩(昭和二十五年十月二十一日分筆により美唄市字美唄千二百三十八番地の八となる。)、(六)及び(七)の土地各全部合計一町一反歩が買収された。ところで右買収に際し、当時の訴外美唄農業委員会は、(一)及び(二)の土地各全部と(三)の土地のうち五反歩合計八反歩の土地(以下八反歩の土地と略称する。)は当時その一部は既に宅地であり、宅地でない部分も引き続き宅地化されつつあつたので、後日その全部を宅地として使用目的変更の手続をすべきであるとして買収の対象から除外し、その他の土地即ち(三)の土地のうち前記五反歩を除いた一町八反七畝歩、(四)の土地全部及び(五)の土地のうち五反五畝歩合計三町一反歩を原告の保有農地とする旨の指定をし、原告はその頃同訴外農業委員会から口頭による右指定の通知を受けた。なお、右三町一反歩は当時美唄市内に居住する農地の所有者が同市内において保有を許されていた小作地面積(以下保有小作地面積と略称する。)に相当するものである。

しかるに被告は、昭和二十七年七月二十五日既に保有農地として指定を受けた右三町一反歩の農地のうち(四)の土地の一部一反五畝七歩と(五)の土地のうち五反五畝歩の一部四反五畝歩につき買収処分をしたのであるから、右指定に反してなされた本件買収は違法である。

(二)  仮りに右指定の事実が認められないとしても、原告の所有土地中には使用目的を変更すべき農地があるのにその変更の指定をしないで買収した結果、保有小作地面積を割ることになるから、本件買収処分は違法である。

即ち、

前記八反歩の土地は旧買収当時から、当時の訴外美唄市農業委員会において、美唄市の発展のために宅地化すべき土地であるとして論議されており、原告は昭和二十七年三月十四日同訴外委員会のすすめにより右土地につき自創法第五条第五号による買収除外指定の申請を訴外北海道農業委員会に提出したほどである。また本件買収計画樹立当時右土地には多数の人家が立ち並び、近く使用目的を変更することを相当とする農地であつた。したがつて、右八反歩の土地は北海道農業委員会の指定がなくとも買収はできないのであつて、本来宅地として本件農地買収の対象から除外さるべきものである。ところで本件買収計画樹立当時原告が所有していた土地は前述のように合計三町九反歩であつたから、右八反歩を除くと原告の所有農地は三町一反歩になり、それは美唄市における保有小作地面積に等しいので、もはや原告所有の土地に対しては農地買収をする余地はないのである。それにもかかわらず、本件買収計画樹立にあたり、美唄市農業委員会は八反歩の土地を原告の保有小作地面積としてこれを算入したため、丁度本件土地の面積に等しい六反七歩が保有小作地面積にくい込むことになつたのであり、本件買収処分は違法である。

(三)  仮りに右(二)の主張が理由ないとしても、本件買収処分は現況宅地の土地を原告の保有小作地として計算しているので、原告の保有小作地面積は少くとも三反三畝二十二歩これを割ることになる。

本件買収計画樹立当時八反歩の土地のうち、少くとも五反三畝十五歩が現況宅地となつていた。そして本件買収計画樹立当時原告が所有していた土地は合計三町九反歩であつたから、原告所有農地はこれから右現況宅地面積を除いた三町三反六畝十五歩に過ぎなかつた。しかるところ、本件買収によつて合計六反七歩を買収されたため、結局原告は二町七反六畝八歩を農地として保有するに過ぎないことになつた。しかして保有小作地面積は三町一反歩であるから三反三畝二十二歩これにくい込んだことになる。このことは右宅地部分の面積を原告が保有する農地としてこれに算入し、これを本件買収計画樹立の基礎としたために生じたのであるから、本件買収処分は違法である。

(四)  仮りに右(三)の主張が理由ないとしても買収の対象たる土地が特定されていない。即ち、

本件買収令書に記載されている買収すべき土地は、美唄市字美唄一二三八番地の五、畑四反五畝歩、同上番地の九、田一反五畝七歩である。しかしながら、被告が本件買収令書を発行した昭和二十七年七月二十五日当時は、公簿上同上番地の五は五反五畝歩であるし、同上番地の九は存在しない。それであるから右土地はいずれも公簿上いずれの部分か特定しないばかりでなく、本件買収令書には買収農地を特定する図面も添付されていないから、結局本件買収農地は買収令書自体において特定されない違法がある。

(五)  仮りに以上の主張が理由ないとしても本件買収処分は憲法第二十九条に違反する。即ち、

前述のように本件買収により原告の保有小作地面積が六反七歩もしくは少くとも三反三畝二十二歩少なくなる結果となつた。ところが憲法第二十九条は財産権の不可侵を保障し、ただ公共の福祉のためにのみ制限を受ける旨規定している。本件農地買収についていえば、自創法によつて許された保有小作地面積は三町一反歩であり、右面積は公共の福祉に対する最大限度の制約であるということができるから、原告の保有する農地面積が右三町一反歩以下になる農地買収は許されないことになる。それであるから本件農地買収処分は原告の財産権を公共の福祉のため必要な限度を超えて不当に侵害するところの違法なものである。

三  よつて本件買収処分の取消を求めるため本訴請求に及ぶ、と述べ、被告の答弁に対し、

四  被告の主張は争う。本件土地が分筆登記されたのは昭和二十七年九月二十二日であつて買収計画樹立の時にされたものではないし、本件買収令書が発行された当時も分筆されていない。本件買収が仮りに遡及買収であるとすれば、次の理由で違法である。

(一)  遡及買収の要件を欠いている。即ち、

昭和二十年十一月二十三日当時以後本件買収計画樹立の時まで本件土地の所有者は引続き原告であり、またその間原告の住所に変更はない。しかして本件土地は訴外前田仁太郎がその間引続き原告に対する賃借権に基き耕作しており、また引続き農地であつた。よつて本件買収は自創法第六条の五の要件を欠くから違法である。

(二)  本件買収令書に記載されている買収の時期が異る。

自創法は特に買収の時期というものを認めてこれを買収令書の記載要件とし、もし買収処分があつた場合には右買収の時期において、当該農地の所有権は政府がこれを取得し当該農地に関する所有者の権利は消滅するとしている。したがつて買収処分の要件を充足する事実の判断は右買収の時期を基準とすべきものである。ところで本件のような遡及買収の場合においては昭和二十年十一月二十三日が買収の要件を充足する事実の判断の基準となるのであるから、本件買収令書に表示されるべき買収の時期は右同日でなければならないのに、これを昭和二十七年四月二十日としたのは違法である。

(三)  仮りに以上の主張が理由ないとしても自創法第六条の五は憲法第二十九条に違反する。即ち、

憲法第二十九条は財産権の不可侵を保障し、ただ公共の福祉のためにのみ制限を受ける旨規定している。そして公共の福祉の意味についてはこれを決めるときの社会事情を顧慮して政策的に考えられなければならない。ところで自創法の意図する政策的考慮は同法第一条に規定するように第一に自作農の創設、第二に土地の農業上の利用増進による農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進であるから、これらの目的のためにする買収のみが公共の福祉のために適合するものというべきである。しかるに、

(1)  自創法第六条の五は昭和二十年十一月二十三日現在における農地で同日以後において農地でなくなつたものについては小作人の請求がなくても遡及買収のための買収計画を定めることができる旨規定しているけれども、そのような土地は現在農地でないから耕作者はいないばかりでなく、従来の耕作者もその土地に対する耕作者でないのが通常であるから、わざわざ昭和二十年十一月二十三日の事実に基き農地買収計画を定めてこれを買収し、自作農を創設せねばならぬ理由はないはずであるし、かつ買収しても農村の民主化には役立たない。また、

(2)  同法第六条の五は昭和二十年十一月二十三日現在と同法第六条による農地買収計画樹立時期とにおいて所有者の住所が異る農地についても遡及買収ができる旨規定するが、もし所有者が同一市町村内で移転した場合にも遡及買収できることとなることを考えれば、その不合理な規定であることは明らかである。以上のように同法第六条の五の規定は前記公共の福祉に適合しないのみでなく、いたずらに土地所有者の所有権を侵害するための規定にすぎないから憲法第二十九条に違反する。したがつて本件買収は違法である。

と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人及び訴訟代理人らは、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、一の事実は本件買収の根拠法条を除き全部認める。本件買収は自創法第六条の五並びに同法第三条第一項第二号の規定に基く遡及買収である。

二の(一)の事実につき、

原告が昭和二十年十一月二十三日当時(一)ないし(七)の土地を所有していたこと、被告が旧買収によつて原告主張の土地を買収したこと(原告主張の分筆地番になつたこと)、保有小作地面積が三町一反歩であること、本件買収の対象土地が(四)及び(五)の各一部であることはいずれも認めるが、その余は否認する。

旧買収がされた際、当時の訴外美唄市農業委員会が原告主張の土地合計三町一反歩を原告の保有農地とする旨の指定及び通知をしたことはない。もつともそのような指定がされたとしても、その後の調査により農地所有者が保有し得る面積を超えて農地を所有していることが判明した場合(いわゆる買収洩れの農地がある場合)には、その超過面積だけ先に保有地として指定された農地から買収しても、土地所有者の保有農地面積が残されている限り何ら違法とはならないから、前記指定の有無は本件買収には関係がない。しかして昭和二十年十一月二十三日当時、原告の所有土地五町歩中、(一)の土地のうち一畝二十七歩、(二)の土地のうち一反一畝二十六歩、(三)の土地のうち六畝歩合計一反九畝二十三歩が現況宅地で、その余の合計四町八反七歩は農地であつた。そこで被告は旧買収によつて右農地のうち原告主張の土地合計一町一反歩を買収し、これと右宅地及び保有小作地面積三町一反歩との合計四町三反九畝二十三歩を前記五町歩から除いた六反七歩に相当する農地として本件買収を行つたのである。

二の(二)の事実につき、

原告から原告主張のような申請書が訴外北海道農業委員会にあてて提出されたこと、本件買収計画樹立当時原告が三町九反歩の土地を所有していたこと、訴外美唄市農業委員会が八反歩の土地を原告の所有する小作地面積としてこれを算入し、その面積を本件買収計画樹立の基礎としたこと、はいずれも認める。

しかしながら、仮りに八反歩の土地が自創法第五条第五号にいわゆる使用目的を変更することを相当とする農地であつたとしても、右土地を原告の所有する小作地の面積に算入して買収をしても違法ではない。即ち、八反歩の土地は使用目的変更の指定がされるまでは依然農地として農地買収の対象となるわけであり、また自創法第五条第五号に該当する農地については、同法第三条第四項のようにその農地の面積は買収の対象となる小作地の面積に算入しない旨の特別規定がないのであるから、同法第五条第五号に該当する農地を原告の保有小作地面積に算入しても何ら違法ではない。

二の(三)の事実につき、

本件買収計画樹立当時、原告が合計三町九反歩の土地を所有していたこと、八反歩の土地のうち五反三畝十五歩が現況宅地となつていたことは認める。しかしながら、本件買収は自創法第六条の五による遡及買収であつて、本件買収計画は昭和二十年十一月二十三日当時における事実に基いてたてられたものである。そして当時宅地であつた部分は先に述べたとおり合計一反九畝二十三歩にすぎず他は農地(小作地)であつた。その後本件買収計画が樹立された当時までに更に三反三畝二十二歩が宅地化されたのであつて、原告は右宅地化された面積だけ原告の保有小作地面積にくい込んだ旨主張するけれども、遡及買収である本件買収においては右三反三畝二十二歩は農地として取扱われるから、結局保有小作地面積には少しもくい込んでいないのである。

二の(四)の事実につき、

本件買収令書に記載されている買収すべき土地が原告主張のとおりであること、本件買収令書に原告主張のような図面を添付しなかつたことは認める。

しかし、本件買収農地は次の理由により特定されている。即ち、本件買収計画樹立と同時に当時美唄市字美唄一、二三八番地の五、五反五畝歩の土地を同番地の五、四反五畝歩と、同番地の十、一反歩とに分筆して前者につき、また同番地の四、六反八畝歩の土地を同番地の四、五反二畝二十三歩と同番地の九、一反五畝七歩とに分筆して後者につきそれぞれ買収計画をたてたのであつて、訴外美唄市農業委員会は本件買収計画を公告する際分筆図面を添付して右の旨を示し、関係書類として縦覧に供しているし、原告に対してもその旨通知しているから、本件買収計画公告の際買収対象土地の位置は特定されている。したがつて本件買収令書には図面が添付されていないけれども、原告主張のような記載をしただけで本件買収農地は特定されているということができる。

二の(五)の事実につき、

すべて争う。本件買収は遡及買収であつて原告の保有小作地面積には少しもくい込んでいないこと前述のとおりであるから憲法第二十九条に違反しない。

と述べ、原告の主張に対し、

四の(一)の主張につき、

昭和二十年十一月二十三日現在農地であつたものが、その後使用目的の変更などによつて農地が潰廃された場合にも、自創法第六条の五による遡及買収はできる。しかも原告は、その後本件買収計画樹立当時までに更に所有地中三反三畝二十二歩を宅地化している。よつて本件買収がその要件を欠くとの主張は当らない。なお右のような場合に、遡及買収の対象となる土地は現在農地であるものに限られ、現在農地でなくなつた土地は、遡及買収の対象土地とはならないが、所有者の保有する農地の面積としてこれに算入され、農地買収計画樹立の基礎にはなるのである。

四の(二)の主張につき、

遡及買収におけるその要件事実の判断は昭和二十年十一月二十三日現在においてなさるべきものであるが、農地買収の時期というのは、当該農地の所有権を政府が取得する時期をいうのであるから、買収の時期は買収計画樹立時以前になることはあり得ない。なぜなら遡及買収の場合において買収の時期を昭和二十年十一月二十三日とすれば、土地所有者はその日まで遡及して所有権を失うこととなり、かえつて所有者の財産権は著しく侵害される結果となる。しかして、本件買収計画樹立の時期は昭和二十七年四月十日であり、買収の時期は同月二十日であるから、原告の主張は当らない。

四の(三)の主張につき、

(1) 原告の主張は自創法第六条の五の解釈を誤つたものである。同条の規定により買収計画をたてる場合には、前述のように昭和二十年十一月二十三日現在農地であつたが同日以後農地でなくなつた土地を、所有者の保有小作地面積に算入し、その超過面積につきその余の現況農地を買収の対象とするものである。したがつて当該農地の耕作者は農地の解放を受けることができるわけである。

(2) 同法第六条の五の規定の趣旨は、農地改革に関する法律の施行に先き立つて農地の所有者が、農地買収を免れようとして小作地を取り上げたり或は在村地主となるため住所を変更したり、或は農地を潰廃するなど、農地改革の目的が阻害されるおそれがあつたので、それらを防止するため昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基く農地買収計画の樹立を是認したのである。したがつて前記法条は、農地改革の全国的実施に当つて、一部の土地所有者の農地改革回避行為から生ずる土地所有者相互間及び小作人間の不公平・不平等な結果を防止するために、公共の立場から要請された規定であつて、条理上当然是認さるべき規定である。されば同法第六条の五は憲法に違反しないものというべく、本件買収処分は適法である。

と述べた。

(証拠省略)

理由

美唄市農業委員会が、昭和二十七年四月十日原告所有の本件土地につき自創法(根拠条文の点は除き)による買収計画をたてたこと、これに対し原告が法定期間内に同農業委員会に異議を申し立てたが、同月二十二日却下され、更に法定期間内に北海道農業委員会に訴願したところ同年五月二十五日棄却され、同年七月二十三日右裁決書謄本の交付を受けたこと、ついで被告知事が右買収計画に基き原告主張の買収令書を発行し、同年八月十二日原告にこれを交付して買収処分をしたことは当事者間に争いがない。

まづ本件買収処分の根拠法条につき考えること、成立に争いのない乙第一号証の一、二、甲第十六号証と証人加藤宗一の証言を総合すれば、本件土地に対する買収処分は自創法第三条第一項第二号、同法第六条の五の規定に基く農地の遡及買収処分であることを認めることができる。成立に争いのない甲第一号証の一も右認定を妨げる証拠とはならない。

よつて本件土地に対する農地遡及買収処分が違法なものかどうかについて考えるに、原告は、昭和二十年十一月二十三日当時以後本件買収計画樹立の時まで本件土地の所有者は引き続き原告であり、またその間原告の住所に変更はない。しかも訴外前田仁太郎がその間引き続き原告に対する賃借権に基き耕作していた農地であるから、遡及買収の要件を欠くと主張するに対し、被告は、原告の所有土地中に自創法第六条の五に規定する要件事実が存在する場合には、当該土地以外の現在農地である部分を同法条により買収することができるとの主張を前提として、昭和二十年十二月二十三日現在農地であつたものが、その後において使用目的変更などによつて農地が潰廃された場合にも右法条による遡及買収ができるのであり、原告は、本件買収計画樹立当時までに更にその所有地中三反三畝二十二歩を宅地化していると主張するので判断する。

成立に争いのない乙第一号証の三、証人小島豊作、同前田仁太郎及び同竹本サキの各証言並に検証の結果を総合すれば、昭和二十年十一月二十三日当時(一)及び(二)の土地上に国道に沿つて前田、小野、綿引、泉らの居住する数棟の家屋が、また国道と草刈道路との交叉する角には田山の居住する家屋が、(三)の土地には阿部の居住する家屋がそれぞれ存在し、(一)の土地中一畝二十七歩、(二)の土地中一反一畝二十六歩、(三)の土地中六畝歩合計一反九畝二十三歩が宅地となつていた。そしてその余の部分は農地であつたが、その後本件買収処分がなされるまでに右(三)の農地の上に更に力石、葛西、西島、小松らが家屋を建てた。原告は、これら家屋の建築に当りその敷地につきいずれも使用目的変更の許可を受けていることが認められる。したがつて、右(三)の土地のうちの農地の潰廃は適法なものであるということができる。

そもそも、自創法がその第六条の五において、昭和二十年十一月二十三日を遡及買収の基準日と定めた趣旨は農地の改革に関連する法案が発表されたため、その後法律の制定施行に先き立つて農地の所有者が小作地の取り上げなどにより所有農地の買収を免れようとして種々工作をするなど農地改革の目的が阻害されるおそれがあつたので、それらを防止するため、かつは右阻害された結果を是正するためとられた措置であつて、昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基けば農地買収の要件に該当するものについて、場合により、その農地の買収をなし得ることにすることによつて自創法の目的とするところの、自作農を急速かつ広汎に創設し、土地の農業上の利用を増進し、もつて農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ろうとするにあるのである。したがつて昭和二十年十一月二十三日当時農地であつたものが、その後潰廃された場合にも右法条により買収することは勿論可能であるが、同時にまた右立法の趣旨にかんがみ、右潰廃が不法になされた場合でなければ右法条による買収はできないものと解するのを相当とする。

原告がした(三)の農地の潰廃はさきに認定のとおり適法なものであり、原告が遡及買収の要件を欠くとして主張する前記事実については被告において明らかに争わないところである以上、本件遡及買収は自創法第六条の五の要件を欠くものというべく、したがつて同法条に基いてなされた本件農地買収処分はその余について判断するまでもなくこの点においてすでに違法であるから取り消すべく、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野沢龍雄 吉田良正 徳松巖)

(目録省略)

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